かすかに。
「ミリよ。女たちの神よ。ミリならばわたしのこの気持ちが分かるはず! 女の心を踏みにじる男どもの欲望に鉄槌を! わたしの純潔をお守りください!」
まだひと言たりとも交わしてさえいない相手のことを、よくもまあこれだけあしざまに言えるものと、端で聞いている者がいれば思っただろうが、このときはイグエも拝殿の外。
彼女の自分勝手な言葉を聞いているのはただミリのご神体のみ……。
そのご神体が、かすかに光を帯びた。
――まったくだわ。
「え」
すっかり自分語りに夢中になっていた姫は、突然聞こえた声にはっとなって周囲を見回した。
「だ、誰……っ?」
――お前の願い、きいてあげましょう。
「まさか……まさか…………」
おびえと驚きが入り交じった顔で姫はじりじりとあとじさろうとする。
もはやご神体の異常は誰の目にも明らかだった。
まるでひかり鯰のように、ご神体はきらきらと輝き、その中央あたりからは湧き水のように細い透明な液体が滴りさえしているではないか。
「ミリが……本当に…………」
うろたえるニミウラ姫の目前で、ご神体はいよいよ光を増し、声は拝殿全体を震わせるほど大きくなった。
次回へつづく
『ニミウラ姫の純潔』は、架空世界カナンを舞台にしています。
同じ世界を舞台にしたほかのおはなしをウェブサイト『神と人の大地』で読むことができます。

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