【聖都物語 試編2 20】
「なんだって!」
僕はシントラさんを突き飛ばす勢いで部屋から出た。
「先生」
ミグさんの部屋に飛び込んだ僕を、ニスナさん、そして交替に来たらしい、女性ふたりが振り返る。
だが僕はそれに構わず彼女が寝ているはずの寝台に……。
いない。
寝台は空っぽだった。
寝具の上に手を当てるとまだ暖かい。つい今し方までここに寝ていたのだ。
「す、すみません。ちょっと目を離した隙に……」
「いないって、どういうことなんですか。目が覚めた? もしかして厠に……」
「探しました」
交替に来ていたがっちりした体型のひとりが首を振った。そこへシントラさんも戻ってくる。
「先生の部屋にもいなかった」
「……もって、じゃあ官舎の中には……」
「いませんでした。探したんですが……。外へ出て行ったんでしょうか」
僕は部屋の窓を見たが、今は窓板が閉められている。暗くなったし、すでに灯してある行灯の火をつけるところで閉じたのだろう。
さっき部屋から聞いた声の様子からすると、僕以外の4人は玄関先にいたようだ。その間にミグさんがいなくなったのだとすると、窓から出て行ったことも考えられる。
「しかし、なんでミグさんがそんなことを……、いや……しないとは限らない……?」
そうだ、考えてみれば、いまのミグさんは普通の状態じゃないんだ。
もしあの蜘蛛の神が彼女についていたとして……。
つづく

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