「カヤクタナ王妃 ウナレ・ナンハバシク・ハンムー(前編)」
カナンの人生・波瀾万丈
恋する軍師は最善を尽くす
カヤクタナ王妃 ウナレ・ナンハバシク・ハンムー(前編)
カヤクタナの王妃にしてカヤクウル建国の立役者となったウナレ・ナンハバシクは、夫であるモロロット二世のため、そして彼の愛した祖国のために「最善を尽くした」女性である。
ウナレ王妃が求めたものは、愛するモロロット二世との幸福な家庭――。
政治も戦も知らない彼女がカヤクタナを救うために用いたのは、恋の駆け引きだった。
だが、ウナレに卓越した為政者、ことに軍師としての素養があったのは間違いない。彼女は、ハンムーの王妃ネピニィニを見て育ったのだ。
ウナレが少女時代を過ごした当時のハンムーは、「ラノートの渦」と呼ばれた混乱状態にあった。権力の座を巡って陰謀劇が横行し、父母を謀殺によって失った彼女は、伯父であるハンムー王ケケレンと、王妃ネピニィニの元に引き取られた。
ネピニィニは「ラノートの渦」に自ら飛びこみ、権謀術数の才覚を発揮し、ついには大国ハンムーの王妃に上りつめて国政を意のままにした女性である。
そのネピニィニに可愛がられたウナレだが、伯母とは異なる道を選ぶ。彼女は血で血を洗うハンムーの謀略を忌み嫌い、実直なカヤクタナの王子モロロット二世に魅せられた。
だからこそ、隣国と縁戚関係を結びたい伯母の政略と知りつつハンムーを離れ、カヤクタナへの輿入れを熱望したのだ。
ネピニィニは、ウナレにとって企ての師であると同時に、「駆け引きのための駆け引き」に溺れた反面教師でもあった。
「最後の神」戦役の最中、ネピニィニの訃報を耳にした彼女は「伯母上らしき最期じゃ。ラノート神が相手では得意の駆け引きもままならぬ」と悲しげにつぶやいたという。
その後、皮肉なことに歴史は、ハンムーのネピニィニではなく、カヤクタナのウナレをより大きな権力の頂点へと押し上げていくことになる。
モロロット二世との婚姻は十四歳のときだが、正式に輿入れしてカヤクタナ入りしたのは、夫が王に即位した後だった。
その後の六年間、ウナレは夫から敬遠され、カヤクタナの貴人たちに「ふしだらで浮気者の貴婦人」とあらぬ噂を立てられる。
王妃の居場所は、洗練されたハンムー文化に憧れるカヤクタナ貴人の妻たちを集めた“華の間”にしかなかった。
だが「最後の神」戦役の勃発で、事態は一変する。クンカァン軍との会戦でモロロット二世が囚われの身となったとき、彼女は悲壮な決意を胸に、愛する夫のために立ち上がった。
カヤクタナがこの戦役を生き延び、最終的な勝利を得ることができたのは、ウナレ王妃の先見ある決断や策略に因るところが大きい。
後世の史書には「モロロット王を色香で惑わせ、ネピニィニ譲りの権謀術で彼を操った」などと伝えるものもあるが、真実は異なる。
彼女はただただ、愛する夫のために最善を尽くしたに過ぎないのだ。
ウナレの功績は、以下のようなものだった……。
(中編に続く)

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