私がかつて「ボス」と呼ばれた時代を知る者も周りにはずいぶん少なくなった。まだ10代だった私は容姿が「老けている」と言われていて、小劇場芝居に出ていても父親役とか老人役が多かった。
その頃、川口さんという私達より少し年上の演出家がいてその人に言われたことがある。「ボスは今だからこそ老けて見えるが、そのうち年齢が追い越していってやがては年齢より若く見られる時が来るだろう」と。
あれから10年以上経った今、ついに「ボス」が年齢より若く見られるその日がやって来たようである。
最近、新しく知り合った大半の方に私はどうやら20代後半、時には20代半ばに見えるようである。そして、実際32歳で既婚であると言うととてもびっくりされる。
「営業はいっているのか?」と今までの経由からつい疑いたくなってしまうのだが、ホステスと飲んでるわけじゃなし、芝居者同士の世間話でそんな気を使う必要もないだろう。万一そういうものもあったとしても、以前のように年齢よりも上に見られることはまずない。
誤解しないでもらいたいのは、私は別に若く見られたいわけではないし、逆に舐められているような気がしないわけではないので特に嬉しいと思うわけでも、自慢したいわけでもない。
ただ、川口さんの言った事は正しかったんだなと、あの頃のことを思い出すだけである。

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