前作「TAKESHIS'」が私にとって凄くいい映画だったので、期待していたのが…。
前作で全編を貫いていた「今までの俺の映画をぶっ壊してやる!」という情念は、いい意味でも悪い意味でも観る者を圧倒させ、混乱させるほどのパワーがあったと思うのだが、今回の作品にはそこまでのポテンシャルは感じなかった。同じハチャメチャなようでいてちゃんと緻密に計算されていた「TAKESHIS'」に比べて、この「監督、ばんざい!」は本当にただの撮りっぱなしという気がしてならない。
前半は監督が次回作に悩むという設定で巨匠と呼ばれる自分自身を自虐的に笑い飛ばし、後半は大富豪の秘書と当たり屋親子のハチャメチャな展開で映画そのものを笑い飛ばしている。その意図はよく解るし、北野監督らしいとも思ったが、+αの監督ならではの冴えは感じられなかった。
強いて言えば、途中まで撮って投げ出してしまった「コールタールの力道山」という話はよく出来ていた。「三丁目の夕日」に対抗して作ろうとしたのだが、「三丁目〜」よりずっと面白くなりそうだった。しかし、結局よく解らない理由で中途で投げ出してしまう。
「そんな当たり前な映画撮らないよ!」という姿勢は松本人志の「大日本人」にも通じるが、でもそれ以上の価値もないように感じてしまうところも共通している気がする。
そもそもまったく畑違いの監督としてデビューした北野監督が「映画なんか壊しちゃえ!」と言って撮った「その男、凶暴につき」は衝撃的な映画だった。壊し方、崩し方に物凄くセンスがあった。
また、初期のシリアスな作風が定着しかけたときにそれをぶっ壊そうと言って作った「みんな〜やってるか!」も人によって好き嫌いはあるかもしれないが、私は凄くセンスを感じた。「監督、ばんざい!」もオバカ映画とかバラエティ・ムービーとかと謳っているが、バカさも笑いも「みんな〜」の方が圧倒的に勝っているような気がしてしまう。
まぁ、そういう具合に過去作品から引き合いに出されて評価されることに対しての反骨精神もこの作品意図にはあるのだろうが、それにしては新しいことに挑戦しているような姿勢が感じられなかったのが残念だ。
ただ、途中で何度か映画が素に戻る瞬間があって、ラストちょっと前では実際にカメラ・クルーやスタッフまで映ってしまうシーンがあった。私はここで監督が「ダメだこりゃ!」と言って撮影現場から逃げ出すんじゃないかと思った。「もう撮りたい映画なんてないよ!」と監督が逃げ出してスタッフや出演者が困る…それで冒頭のシーンへ繋がるのかと思ったが、そうはならず監督は仕切りなおしてオバカ映画を撮り続ける。
ラストの落とし所も今回は納得がいかなかった。映画が壊れているか壊れていないか判断するのは観客であって、監督自らが「この映画壊れてます」と言ってしまうのはちょっとスケールがチッちゃいように感じてしまう。
この映画は「監督、ばんざい!」というより、「江守、ばんざい!」だというのが率直な感想だ。監督の悪ふざけで作ったような役なのに、手を抜かずちゃんと気持ちを作って丁寧にやりきった役者、江守徹はやはり素晴らしい!この映画では彼一人が輝いていたように思う。やはりちゃんとやっている人からは伝わってくるものがあるのだ。

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