私のスコセッシ監督のマイ・ベストは意外に思われるかもしれないが、「アリスの恋」である。夫を交通事故で亡くしたエレン・バースティンがそれを期に「歌手になりたい」という子供の頃の夢を叶えるため、こまっしゃくれた息子と共に流しの旅に出るという異色ロードムービーだった。今はなきアルゴ新宿のレイトショーで観てのほほんと皆で笑って楽しかった。この映画についで「タクシー・ドライバー」と「レイジング・ブル」あたりが私の好みである(ちなみにワーストは「ケープフィアー」で映画館で観たくせに一シーンも印象にない)。
スコセッシ監督のギャング映画とくれば面白くないわけがないと、リリース直後にDVDを借りてきた。観始めたのが夜中の二時だったため「途中で眠くなったら寝ちゃおう」思っていたのだが、そんなこともなく案の定面白くて最後まで一気に観れた。
しかし、観終わると不思議とアラばかりが印象に残っている作品である。アカデミー賞を総なめにするほどの映画だろうか?
私としては悪役のジャック・ニコルソンが薄汚くって、あまりヤクザの大人物という感じがしない。存在感ピカイチなのは流石だが、スカーフェイス(顔役)というよりはサイコ(異常者)の怖さだから質が違う感じがする。人殺しや残虐行為もあんまり楽しそうにやっちゃあ人はついてこないんじゃないか?「バットマン」みたいな映画だったらそれでも構わないが、大人向けを狙うんだったらもっとクールな悪を持ってくる必要があったんじゃないかな?個人的にはやはりスコセッシ組の役者としてハーベイ・カイテルかジョー・ペシあたりにやってもらいたかった。
逆にディカプリオの役をもっとダーティでギラギラした奴をキャスティングした方が良かったんじゃないか?対極であるはずのマット・デイモンもディカプリオも共にお坊ちゃんみたいな顔だからあまり対立軸になっていないような気がしてしまう。オリジナルの「インファナル・アフェア」ではデイモンの役を野坂尚也氏似のアンディ・ラウがやっていたらしく、もっとクールで悲壮感漂う奴だったんじゃないか?ただデイモンみたいなマヌケなボンボンの雰囲気でもそれなりに成立しているので、世間が言うほど悪いとは思わない。
あと閉口したのは、暴力描写がリアルなのとあまりにマンガ的なのが混在していてそのギャップに戸惑った。特に上司が主人公の鼻をかすめて落ちてくるシーンなど、映画館で笑いが起こらなかったのかな?思わずモンティ・パイソンかと思ったよ。
ストーリーも「ヤクザのネズミと警察のイヌ」のスパイ対決なのだが、最後は誰が見方で誰が敵だか取り止めがなくって散漫とした印象だけが残ってしまった。ラストの狙撃者も上司の敵討ちだったのかヤクザの手先だったのかイマイチはっきりしない。…まぁ、それが狙いだったのかもしれないからいいちゃいいのだが。
とにかくやたら「あれは何だったんだ?」と観終わった後にツッコミ所ばかりが気になってしまったが、とにかくテンポが良くて最後まで飽きさせずに一気に観れて楽しかったのは間違いない。スコセッシのこれまでの偉業を考えれば、彼が念願のアカデミー賞を撮れたことを素直に喜ぼうではないか。

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