私は劇団を旗揚げして計12本の作品を創作し発表してきたが、よくアンケートなどで「この作品で一番訴えたいことは何か?」という質問を目にする。基本的に私は何か訴えたいことがあって芝居を作っているのではない。自然とそれらしきメッセージが出てきてしまうことはあるが、基本的には自分が面白いと思うから作っているのだ。「言いたいことが解らない」という意見には、「言いたいことがないとダメなの?」という素朴な疑問を旗揚げ当初からずっと持っていた。
黒澤明監督の生前のインタビューで「映画で訴えたいことなんてないよ。そりゃ創っているうちに自分の意見も入ってくることもあるけど、特別な事を言おうと思って映画創ったって面白くないよ」と言っているのを聞いて深く共感した。アニメの宮崎駿監督も最近のインタビューで「何かを訴えようと思って映画を創ったらそれはくだらないものです。だって訴えたいことがあるなら言葉で言えばいいじゃないですか」と答えていて、これも我が意を得たりと思った。
しかし、日本のエド・ウッドと呼ばれる奇才、石井輝夫監督の作品を観たらいかに黒澤宮崎両氏と言えど、「一体何が言いたいんじゃ!」と怒号するに違いない。
石井輝夫監督の大名作「江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間」を初めて観たのは今から10年も前だ。当時通っていた映画学校にこの作品の大ファンがいたのだ。彼があまりにも絶賛するので是非一度観てみたいと思っていたのだが、この作品は何故かビデオ化されていなくて(今でもDVD化されていない)観ることができなかった。それが今はなき自由が丘武蔵野館のレイト・ショーで上映されるというので、自転車漕いで駆けつけた。
唖然とした。終始石井ワールドのバカ・パワーに圧倒されまくりだった。それは他の観客も同じだった。暗黒舞踏のカリスマ、土方巽演じる奇形人間が「恐怖」を演出する度に場内が大爆笑につつまれた。
そして、何と言ってもラストの大花火のシーンでは観客の心が一つになって拍手が起こった。このシーン、一度見たら絶対頭から離れない。まだ未観の人がいたら是非リバイバル上映会を見つけて足を運んでもらいたいので詳しくは書かないが、本当にありえないラストシーンなのだ。
以来、「奇形人間」に限らず石井監督の作品がリバイバル上映されると通っていた。「奇形人間」だけで三回は通ったはずだ。
この間、この映画のことを「たまにじ」メンバーに熱く語っていたら、若林さんが「石井輝夫三回忌オールナイト」と称して「奇形人間」が上映されるという情報をゲットして「みんなで行こうよ!」と誘われた。7/28日、池袋文芸座で「奇形人間」他、「直撃!地獄拳2」「ポルノ時代劇・忘八武士道」「猟奇女犯罪史」の四作品が上映される。
これは行かねばなるまい!

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