8月13日(月)午後
岩手の小岩井農場にはちょっとした因縁がある。
高校時代にジョージというちょっと変わった奴がいた。ある年の暮れに、彼は正月に新幹線が乗り放題になるという「お年玉フリー切符」なるものを手に入れた。彼はその使い道として、なぜか「お正月に初牛乳を飲むために、小岩井農場に行く」という企画を突如思いつく。そしてわざわざ元旦に初牛乳を飲むためだけに、岩手行きの新幹線に乗った。しかし、いざ長旅の末に小岩井農場まで辿り着いてみると、何と農場は正月休みで閉まっていた。正に骨折り損のくたびれもうけというトホホな結果となってしまったのだ(まぁやっていたとしてもそれほど得はしないと思うのだが…)。
数年後、私は東北方面に一人旅に出た時にふとジョージのことを思い出した。そしてあの時の彼の無念を晴らそうと思い、小岩井農場で牛乳を飲もうと思い立った。ジョージと違って「青春18切符」の貧乏旅行だったため、小岩井駅までエライ時間がかかってしまった。しかも目の前がもう牧場の一部だったため、すぐに牛乳の飲めるところまで辿り着けるだろうとタカをくくってバスに乗らずに歩き出したのだが、行けども行けども農園らしき場所に辿り着かない。実は牛乳などを売っているまきば園まではどんなに早く歩いても一時間以上かかるのだ。重い荷物を背負って炎天下の中、足を棒のようにして死にそうになりながらようやくまきば園に辿り着いた時にはすでに日が暮れてしまって農場は閉まっていた。私はどうにもやりきれない気分で、せめて乳製品だけでもと思い販売機で飲むヨーグルトを求めようとした所、小銭がなくてそれも叶わなかった。すでに終バスの時間も過ぎていてどうやって街まで帰ろうかと小一時間ばかり途方にくれていた所、偶然通りかかったタクシーに拾われて、命からがら小岩井から脱出してきた。結局、私もジョージの二の舞で、小岩井牛乳が飲めなかったわけだ。
さらに、数年後。私とジョージの共通の知り合いでサカシタというまた変わった奴がいた。彼はその頃、自転車ひとつで日本中を放浪するという粋なことをやっていたのだが、ある時彼から手紙が届いた。消印を見ると盛岡ではないか!
「海ちゃん、ジョージ、君たちの無念はこの俺が晴らす!」
封筒にはそう走り書きがされてあった。中を見てみると写真が一枚入っていて、それには晴天の下、本宮ひろ志風に腰に手を当てて牛乳を一気に飲み干しているサカシタの勇姿が写っていた。
「ああ、ついに我々三代に渡る小岩井農場の決斗は幕を閉じたのだ!」
感無量。男の友情である。
そして、さらに数年後、私は再び小岩井農場を訪れ、ようやく牛乳を飲むことが出来た。恐らくその時、私の青春時代は終わった。
今回の旅行でもまた小岩井農場に立ち寄った。今度はカミさんとふたりで牛乳を飲んだ。それどころかジンギスカンまで食べた。男の意地とプライドの物語ではなく、すっかりただの観光旅行である。まぁ、一般的にはこれが小岩井農場の本来の姿だろう。

生まれて初めての乗馬に挑戦!

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