「らいふ」という言葉をご存知だろうか?
ちなみに、LIFEではない。アメリカの写真雑誌でもないし、ライフ・ガードもライフ・ラインも関係ない。
では、「らいふ」の本当の意味は次のうちどれでしょう?
@海老の天麩羅
A魔除けの札
B雷避けの護符
C石器時代遺物の石斧などを、落雷などの際に天空より降りたものと考えたもの
Dモスクワの漢名 雷付
このうちひとつが広辞苑に載っている本当の答えで、あとは私と友人たちが勝手に創作したものである。
そう、これが知る人ぞ知る「たほいや」というゲームである。もともとはイギリスで生まれたゲームで、「ディクショナリー」と呼ばれていたそうだ。
高校時代にフジテレビの深夜で取り上げられて有名になったようだが、私はその番組自体は見たことがない。私の友達でこの番組にハマっていた奴がいて、仲間内でやるようになったのだが、これがメチャクチャ面白くってみんな「たほいや」虜になってしまった。
マイ・たほいやーズは私も入れて全6人。高校時代は放課後などにしょっちゅうやっていたのだが、卒業してからも年一、二回は全員集まってやるようになった。
今では全員33歳(早生まれを除く)、卒業してからすでに15年が経とうとしている。
皆それぞれの人生を歩むいい年の男たちだ。ひとりは舞台音響家で私と一緒に劇団火扉を主宰している(今では二児に父親の)三木氏。ひとりは大工を目指していたが心を病んで長らく闘病生活に暮れ最近やっと復職を果たした男。ひとりは会うたびに違う女を連れている高給取りの独身エンジニア。ひとりは一時期酒と借金で身を持ち崩しかけたが、今は医療関係機関に勤めやはり高給を取っている男。そして、私と同じ役者の道に進みながらまるで接点のないフィールドで活動している男。
それぞれがそれぞれの世界でそれぞれの事情を抱えて生きている男達である。恐らく(私の場合は相方を除いて)卒業後数年も経てば疎遠になってしまいそうなくらい接点のない仲間なのである。
そんな6人を15年間も結び付けているものが「たほいや」なのである。
友情?ノン、ノン、ノン、それは違うぜ。
小学校でも、中学でも親友と呼べる者はいたし、それは芝居の世界に入ってからも多くの出会いと別れがあった。しかし、この6人ほど長く、年一回程度とはいえ定期的に長く会っている仲間はいない。
それは彼らとの間に「たほいや」があったか、なかったかだと言い切ってしまいたい。
そのくらい「たほいや」は面白いのだ!
前置が長くなったが、上記の「らいふ」は先日我が家で集まって開かれた時のお題のひとつである(今回は職場に復帰した大工が仕事のため欠席、5人でのゲームとなった。残念!)。ではルールを紹介しよう。
まず、くじを引いて親をひとり決める。親以外の5人は子である。
親は広辞苑の中から誰も知らないような言葉を探して、お題として出す。上記の場合は「らいふ」だ(この時、私は親だった)。これを筆ペンで書初めのように(必ずひらがなで)記し、頭上に掲げる(親が辞書を引いている間、子はお互いの近況などを語り合っている)。
子はそれぞれ出題された単語の意味をでっち上げて解答用紙に書く。
頃合を見て親は子から解答用紙を回収し、辞書の定義も含めた解答番号をつけて読み上げる。誰がどの解答を書いたかは親以外わからない。「らいふ」の場合、冒頭のような五択問題として出題される(正確には自分で作った偽回答が含まれているので4択である)。
子は親が読み上げた解答の内、正しいと思う物にチップを賭ける。チップそれぞれ10枚ずつ。一問につき3枚まで賭けられる。
そして、チップが出揃ったところで子は「いっせーの…せ!」で自分が答えだと思った回答の番号を指で記す。
「@、B、@、C」と子の答えが出揃った。
そして、ここからが私達独自のルールなのだが、子は一人ひとり「何故その回答が広辞苑だと思った」のか、それぞれの推理を発表し合う。この時、如何に鋭い推理を発表してみんなを関心させるかが、このルール独特の醍醐味なのである。もちろん、得点には関係ないし、いくら説得力のある推理でも外れていれば元も子もないのだが…。
「海老の天麩羅は、フライを逆さにしただけだ!」
「いや、明治の頃の職人さんが外来語を符丁にしたということは十分考えられる!」
など。
喧々諤々やりあった後、いよいよ正解を発表。
親は順番にそれが誰の考えた回答か、あるいは広辞苑の本当の意味かを発表する。
ちなみに「らいふ」の正解は…C
「やったー!」「くそー!やられたー!」
各々喜んだり悔しがったりした後、チップの清算。
正解者は賭けた枚数と同じ数のチップを親から受け取る。
不正解者は賭けたチップを選択した解答を書いた人に払い、さらに親に1枚チップを払う。
子が全員間違えた時には「親の総取り」で、通常の支払に加えて親にさらに1チップ(計2チップ)支払わなければならない(点数的に親はリスクが大きいのだが、この場合は一発大逆転が可能)。
1ターンは5問と区切られている。
五問目の清算後、一番チップを多く持っていた者が勝ちとなる。
以上が大まかなルールなのだが、実際やってみると自分の想像力やボキャブラリーなどに加えて様々な読みやかけひきが絡み、かなりの心理戦である。1ターンやるだけでかなりぐったり疲労する。
それでも、まるで麻薬のようにハマってしまうのだ。
中でもこのゲームは正解を当てる快感よりも、むしろ人を騙した時の快感の方が大きい(収入も正解するより、より多くの人を騙した方が得点が高い)。さらに、私達独自の推理を発表しあうルールがあるとなおさらだ。鋭い推理を披露して皆を関心させても間違っていれば赤っ恥をかくだけだが、それはそのままその答えを作った人の評価につながる。頭をフル回転させ苦労して作った答えが評価されるのは、やはり気持ちが良いものだ。
是非このゲームの面白さを遍く全ての人々に伝えたい。
ちなみにこの日、出題された回答をいくつか紹介しよう。どれが本当の答えか考えてみて下さい。
「ばっそん」
@罪人を集めた村
A遠い子孫
B江戸時代、商家において盗難による損失を指して用いた語
C農村に金の貸す際、その村の大部分の土地を担保に取ること
D田んぼの水を抜き、入れ替えること
「おすとわると」
@アメリカの革命家。農民運動に参加
Aデンマークの理工学者。ナチスに囚われ、獄死
Bドイツの化学者。あらゆる現象をエネルギー論的に説明し尽くそうとした
Cイギリスの地名。平野が多く、農耕が盛ん
D未開社会
「まんにち」
@新潟県などで、女の祈祷師をいう
A修行僧が無事に業を終えること。またはその日
B月経。生理
C物事が永遠に続くさま
D旧満州国と日本との時差
「かぞいろ」
@ブラジルのサッカー選手
Aロシアの郷土料理。干した芋をスープで煮込む
B極楽浄土にあるという不老果実の色
C父母
D鋳物を焼く炉。小さいが高温になり易く、短時間で鋳物が焼ける
気になる方は広辞苑で調べてみて下さい。
この日は他に以下のようなお題が出されました。
「わきくさ」
「かさかき」
「わたみ」
「こっちり」
「そおど」
「ちゅうはい」
「ゆごう」
「えぐいも」
「おはせ」
「すこうべ」

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