納豆とお題

2007/6/20 | 投稿者: mayfirst

 ランダムお題ジェネレータ

 http://www.geocities.jp/umatan410/odai2

 ランダムに出てくる3つの単語を用いて短編小説を書くというもの。面白そうなので、ファミ通文庫“文学少女”シリーズの心葉くんの気分でレッツトライ!

 出てきたお題は『敵、納豆、童心』



 時に、西暦20XX年。
 人類は、あるひとつの細菌によって滅亡の危機に立たされていた。
 細菌の名前は『NNX』。納豆菌の突然変異体であるそれは、感染したものすべてを――有機物・無機物問わず――ネバネバにしてしまうという恐ろしい性質を持っている。東アジア某国の研究所が、効率の良い納豆生産のための研究の過程で生み出してしまった脅威の産物であった。
 その『NNX』が些細な事故から研究所から漏れ出したのが今から10年前。『NNX』はその恐るべき増殖力を以て瞬く間に地球全域に広がり、人類の生存圏を脅かしていた。人類が居住可能な陸地の70%はすでにネバネバの森に覆われ、納豆特有のすさまじい発酵臭を周囲に振り撒いている。残された人類は、ネバネバの森とそこに住まうネバネバな生命体の襲撃に怯えながら、わずかに残された清浄な大地で生きることを強制されていたのだ。


 だが、人類は自らが滅び行く事態をただ手をこまねいて見ているわけではなかった。


「人類共通の敵である納豆に対し、我々は反撃を開始する」
『NNX』が人類世界の蚕食を開始してからちょうど10年目にあたるその日、南極大陸に議場を移すことで辛うじて機能していた国連総会の場において、議長は残された人類に向かってそうメッセージを発信した。
『オペレーション・リボーンランド』と名付けられた作戦の内容は、いたって簡単なものだった。
 強靭な生命力を有する『NNX』は、しかし高熱に弱いという弱点を有している。120℃以上の高熱に曝されるとほとんどが死滅してしまうのだ。
 そこで、世界中に残されたすべての核兵器を『NNX』の汚染地域に使用し、ネバネバの森を焼き払おうというのである。言わばそれは、全地球規模での熱殺菌処理に他ならなかった。
 だが、それを実行するには、まず世界中に散らばった人々を、唯一『NNX』の魔手が伸びていない南極大陸へ避難させなければならない。あらゆる手段を用いて出来る限りの人類を南極大陸に避難させるのにほぼ1年の歳月を要した。
 後は、無人の荒野と化した大地で擬似的な核戦争を演出すればよいだけ。しかし、そこで人類は最後の難題にぶつかることになる。


「……体調はどうか?」
 北アメリカ大陸沖合の大西洋を進む原子力潜水艦の艦内。艦長は1人のアジア系男性に声をかけた。
「ええ、万全ですよ」
 男は笑顔で答える。しかし、その表情はやや青ざめていた。
 世界中に核爆弾の雨を降らせるためには、アメリカのホワイトハウスとロシアのクレムリンの地下にある“自動戦闘システム”のスイッチをオンにする必要がある。それは、それぞれの国家の首脳部が何らかの理由で機能を喪失した際に、仮想敵国からの戦略核攻撃に備えて自動的に報復攻撃を行うための装置であった。
 このシステムは恐ろしいほど高度に自動化されており、例えば細菌兵器の攻撃を受けてすべての国民が行動不能に陥ったとしても、人の手をまったく介さずに報復核攻撃を実行することが出来る。作戦司令部が目をつけたのはそこであった。両国の自動戦闘システムを稼動させた状態で潜水艦に搭載された核ミサイルをアメリカとロシアにそれぞれ一発ずつ撃ちこめば、後は自動的に全面核戦争が勃発する。
 だが、問題は、誰が自動戦闘システムのスイッチを入れるかであった。
 スイッチを入れることはそれほど難しいことではない。それこそ指一本でできる。しかし、そのスイッチを押すためには、誰かがすで『NNX』に汚染されている両国の首都に上陸し、ホワイトハウスとクレムリンの地下まで赴かなければならないのだ。仮にスイッチを入れることが出来たとしても、『NNX』はその者の身体を確実に侵すだろう。生還の見込みはまったくない。
 文字通りの決死行に誰を派遣するのか――作戦司令部は希望者を募った。そして、ひとりの男性が手を挙げたのである。
「……一つ、聞いていいだろうか」
 艦長はそう言うと、男の隣に腰掛けた。
「なんでしょう?」
「君は、なぜこの決死行に立候補したのかね?」
 艦長の問いに、男は少し複雑な笑みを浮かべた。
「……そうですね、納豆が好きだから、でしょうか?」
 男は語る。幼い頃から納豆が大の好物であった彼は、将来は納豆や豆腐などの豆製品を生産する食品加工企業に就職しようと童心に決めていた。やがて、成長した彼は幼い頃の夢をかなえて食品加工会社に就職、そこで、新製品を開発する部署に配属されたのである。
「僕が担当していたのは、新しい納豆菌の開発です。より美味しく、より栄養価の高い納豆を作るため僕は一生懸命研究を重ねました」
 しかし、彼の研究が生み出したものは、本人すら予想がつかない代物だった。それは、すべてのモノをネバネバにし、糸を引かせてしまう脅威の細菌。
「まさか……それじゃ君が……」
 艦長が驚きに目を見開く。
「君が、『NNX』を生み出したというのかね……?」
「そうです」
 男はゆっくりと頷いた。
「『NNX』の危険性に気づいた僕は、それを処分しようとしました。でも、僕の研究成果を横取りしようとしていた上司が、勝手に持ち出してしまったのです。そして……」
 研究室から持ち出された『NNX』はたちまちのうちに母国を納豆の海に沈めてしまった。それだけではない。感染は海を越えて南極を除くすべての大陸に飛び火し、あっという間に人類社会を崩壊せしめてしまったのである。
 辛うじて脱出に成功した男は、人類絶滅の元凶を作り上げてしまったことに対する自責の念を背負いながら今まで生きてきた。何とかしなければならない。そう思っていた矢先に、決死隊募集の告知が彼の元に舞い込んできたのだ。
「そうか……」
 艦長は深いため息をついた。
「辛いことを思い出させてしまったな」
「気にしないで下さい」
 男が笑う。
「これは僕がやらなければならない仕事なんですから。それに、僕は今でも納豆を心から愛しています。僕が生み出した『NNX』も。だから、納豆の……『NNX』の殲滅はこの僕の手で行いたいんです」


 やがて、ワシントンD.C.の沖合に潜水艦が停泊する。
「酷い有様だ……」
 沖合から見えるかつての超大国の首都は、納豆特有の粘る森に覆われている。潜水艦まで漂ってくる異臭に、艦長は思わず顔をしかめた。
「それでは、出撃します」
 海面に放たれたゴムボートに乗り移った男が言った。
「作戦が終了したら、直ちに信号弾で合図をします。合図が見えたら……」
「分かっている。手順どおり、核巡航ミサイルをワシントンD.C.に撃ち込む」
 艦長が答えた。
「先ほどの報告によると、クレムリンのスイッチはすでに入れられたそうだ。残るは、ワシントンD.C.だけだ」
「……了解しました」
「武運を」
 艦長が敬礼をする。甲板に並んだすべての乗組員が、それに倣った。男は、あまり様になっていない敬礼――何しろ彼は軍人ではないのだ――を返すと、ゴムボートのエンジンスイッチを入れた。


 それから5時間の後、ワシントンD.C.の方角から緑色の信号弾が上がるのが視認される。報告を受けた艦長はただちに核ミサイル発射を指示。数分後、『NNX』に侵され粘つくホワイトハウスの上空で10キロトン級の核爆発が発生した。
 そして、それが引き金となって、南極を除く世界中のすべての大地に核ミサイルの雨が降り注いだ。


 すべての『NNX』の消滅が確認され、南極に避難していた人々が再び清浄な大地に足を踏み入れたのは、それから10年後のことであった。



 納豆というお題が、なぜか『復活の日』じみた物語になってしまいました(笑)。おかしい、どこをどう間違えたのだろうか?
 いや、でも私、納豆は好きですよ。



2007/6/21  21:56

投稿者:ずん太

おお〜!凄いですね!!

mayfirstさんさすがです!即興でキーワードからこんな深みのある話を作れるなんて…
なんか自分だったら朝納豆食ってたら…みたいな話でアッサリ終わっちゃいそうですが…

いや短編には短編なりの深さがあっていいですね。想像力を掻き立てるとゆうか…

面白かったです、ごちそうさまでした。

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