2009/6/19  9:23

詩人菊岡久利-小熊の友たち-1  文学

2009年3月11日、東京への旅に出ていた私は、大学時代の友人と鎌倉で会った。彼と話をしながら、大町、釈迦堂切通し、小町と歩いて最終地点の寿福寺を訪れた。

寿福寺の参道で、そこに墓のある人名の書いてあるプレートを見ていると

「菊岡久利」

という名が目に入った。

彼は詩人である。しかし、その名を知る人は少ない。私は、旅の目的である詩人小熊秀雄の友だったということだけで彼の名を知っていた。友にも聞いてみると、文学の好きな彼でさえ菊岡久利の名を認識していなかった。

しかし、私がかつて住んでいた鎌倉で、しかも、数年ぶりに偶然に訪れた寿福寺で菊岡
久利の墓に巡り合うということは、小熊を通した何か大きな縁があると思った。

私が、菊岡を知ったのは小熊の死後の昭和15年12月に出た「現代文学-小熊秀雄追悼号」という雑誌の

「白樺の俗謡」

という追悼文を読んだことによる。菊岡は、近しい友を失った悲しみを、情に流れない豪放な筆致で描き、印象的な詩を書いている。白樺というタイトルは、小熊の出身地である北海道を意識したものだろう。


旅が終わり、北海道へ戻って、私は文学辞典で菊岡久利の項を調べた。

菊岡久利(きくおかくり) 1909〜1970

詩人。本名高木陸奥男。青森生まれ。少年時代から社会運動に関心を寄せる。詩集に「貧時交」「時の玩具」「見える天使」があり、戯曲に「野鴨は野鴨」。詩は、野性的なエネルギーの横溢に特色があり、日常的な言葉を駆使し解放的な詩風である。

その後、私は、彼の三冊の詩集の復刻版を手に入れた。

昭和13年12月に出版された「時の玩具」のなかに

「色の衣裳」

という詩がある。この詩は、旅をしている青年が、下関に近づく列車の中で出会った朝鮮人の父と少女のことを書いたものである。

青年は、その少女の異国的な雰囲気の美しさに目を奪われる。しかし、それは一時の事であり少女と言葉さえ交わすことなく別れざるを得ない。

この詩は、その時の朝鮮の少女の印象を描いた美しい詩だった。野性的でも、解放的でもない、菊岡の繊細で詩的な感情がここに表現されている。


さらに発見があった。

昭和15年3月、作家壷井栄が小説「暦」を出版し、その出版記念会が新宿寶亭で行われた。その際の記念写真に数多くの人々と共に、詩人小熊秀雄と菊岡久利が写っている。

主役だった壷井栄はもちろん、夫の壷井繁治、深尾須磨子、宮本百合子、佐多稲子、中野重治、秋田雨雀、原泉、高見順、平野謙らの友人も写っている。なんと、興味深い豪華なメンバーの集まりだろう。

写真の小熊は頬がこけ、見るからに死が迫っていることを感じさせる。旭川時代の精悍な若者の雰囲気はすでにどこにもない。

その中で、菊岡久利は堂々とした体躯、豪放な面構えをして立っている。詩人というよりはスポーツ選手のような風体である。

おそらく、小熊と菊岡が同じ写真に収まったのはこれが初めてで最後ではないかと思われる。

その後も、菊岡の人生を調べた。詩からは離れ、新宿で隆盛を誇った

「ムーランルージュ」

脚本部で活躍していたこともあるらしい。

その後、菊岡は、東京四谷の住まいから、鎌倉へ移り住んだ。妻が、小町通りに「社頭」という和紙専門店を開き、今も、菊岡の娘二人が引き続きこの店をやっていることも突き止めた。

私は1990年代初頭に、鎌倉に4年ほど住んだ。この「社頭」という店で買い物をしたこともあった。しかし、この店が小熊秀雄の友であった菊岡久利の妻が経営していた店であることを知らなかった。

詩人小熊秀雄の人生を調べるということは、その周辺の、知られざる友たちの人生を知ることでもある。




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2009/6/19  13:23

投稿者:玄柊

1972年(昭和45年)は、私が東京へ出た年で、その時は浪人生でした。小熊秀雄の名は知っていましたが、菊岡久利のことは全く知りませんでした。こうして、時が経って分かることがあり、彼に話を聞くことはもうできません。しかし、何か眼に見えない吸引力が私をどこかへ連れて行ってくれているように思っています。
次回、鎌倉へ行くことがあれば「社頭」へ行き、娘さんたちにお父さんの思い出を聞けるといいなと思っています。

2009/6/19  12:46

投稿者:モネ

鎌倉でお墓を見つけ、
さらに娘さんがいまも開いている「社頭」というお店まで・・・
小熊をめぐる人の輪がどんどん広がり、友人たちが姿を現し、
語りかけてくれているようです。

菊岡は、エロシェンコまがいの・・と挽歌を詠んだ人でしたね。
1970年まで鎌倉にいらしたとは、、、
直接お話を聞きたかったような。




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