2009/6/23  6:49

アカシアの街に寄す  文学

詩人小熊秀雄は、昭和13年(1937年)6月、十年ぶりの旭川への帰省の後、札幌を訪れた。旭川時代の友人で北海タイムス記者である中家金太郎の誘いを受けたものである。

小熊の生まれは小樽である。少年の頃、小樽から汽車に乗って札幌へ行き、北大構内や街をうろついた事があったらしい。

つまり、札幌は、小熊にとって初めて訪れた街ではなく、印象深い追想の街だった。

この滞在中、小熊は札幌植物園、道庁、北大、大通り公園などを歩き、絵を描き、歌を詠んだ。それらは

「札幌詠草」

として、6月26〜30日に北海タイムスに連載された。歌は出来不出来がある。しかし、札幌を描いたデッサン、

「時計台」

「大通り公園」

「北大構内」

「藻岩山」

は、実に伸びやかな筆致で描かれ、札幌を小熊は好きだったのだなということを感じさせる。

大通り公園西2丁目では、第二代道庁長官をした永山武四郎の像を描き、

「あぶなかしく望遠鏡を手にせるは鉄の将軍永山武四郎」

と、ユーモアと風刺に満ちた、小熊らしい歌を詠んでいる。

しかし、この永山武四郎像は、今はどこを探しても見ることが出来ない。その理由は、小熊の死後に激しくなった太平洋戦争のさ中の昭和18年、金属回収が徹底的に行われ、小熊が

「鉄の将軍」

と詠んだ永山武四郎像も供出されたのである。

今では、この像は写真が残されるだけであり、小熊の残した歌とデッサンは、一人の詩人が見たものとして貴重なものとなった。


この札幌滞在は小熊にとってはいいことばかりではなかった。

北海タイムス記者で友人の中家金太郎の根回しで、北大新聞部主催で明治製菓階上で小熊の講演と座談会を持つことになっていた。しかし、北大新聞部から中家あての電話が入り、小熊の講演と座談会が中止となった。

この中止は、小熊が左翼的な詩人であり北大学内から中止を命ぜられたか、もしくは、翌日来札予定の高名な作家横光利一と川端康成の二人の講演となったということらしい。

屈辱的な話である。

小熊は、憤慨したことだろう。しかし、この件に関しては文章を残してはいない。ただ、札幌では

「北大構内にて」

という背広姿の、印象的な一枚の小熊の写真が残されている。



この小熊の札幌滞在から82年が経過した2009年6月20日、私は札幌へ出かけた。小熊の札幌滞在に関する資料と、迫ってきた樺太関連の資料を集めるためである。さらには、1937年の小熊の札幌滞在と時期が同じということもあった。

札幌へ着くと、歩いてまず旧道庁へ出かけた。82年前にこの道庁の池に立ち寄り、小熊が次の歌を詠んでいたのを知っていたのである。


「道庁の池の睡蓮白ければ官僚主義に染むなかれ花」

まさに、小熊の歌に登場する睡蓮が池に浮かんでいる。小熊もこの同じ睡蓮を見たのだと思うと、大きな感動が私の心に生まれた。

次いで、中島公園の「北海道文学館」へ行った。

特別展「アイヌ口承文学の世界」

で、さまざまな刺激を受けた。

その後、常設展で小熊のスケッチを二つ見た。札幌詠草で描いたペン画とは印象がかなり違うものだが、印象的な二枚だった。

帰りに、北海道文学館で2つの資料を見つけた。

一つは

「札幌市地図復刻版-昭和11年版」

だった。小熊が札幌へ来た昭和13年当時の札幌中心地の様子がそのまま復刻されている。小熊があるいた足跡がそのままたどれるのである。

さらに、

「樺太文学の旅」(上下 木原直彦著)

という、大部の2冊が置かれていた。この二冊は、以前からその存在は知っていたが、なかなか高価なものであり手に入れるのは、まだ先だろうと思っていた。値段を見ると、何と定価4000円の半分の2000円となっている。

なぜ半額なのかは分からない。

本とは巡り合いである。7月中旬に樺太を訪ねる私にとっては、大きな贈り物だった。

帰宅して、全集で昭和14年に小熊が小樽新聞に書いた

「アカシアの街に寄す」

という文章を読んだ。

十年ぶりの故郷。旭川、小樽、札幌への想いが晩年の詩人の心をいかに和ませたかがよく分かる文章である。

その最後に、札幌を小熊はこう語っている。

「昨年、私は大通りの芝生に半日寝転んで、その前を通る電車を見て暮らした。そうして、自由に市民が休息できる街というものは、札幌以外に日本にはないのである」

小熊の訪れた昭和13年のアカシアの街札幌のイメージはすでに失われている。しかし、現代の札幌への私の小さな旅は、詩人の心を幾分なりとも掴めた意味あるものだった。

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2009/6/21  22:10

投稿者:玄柊

札幌で、少年期の追想をしながら、過ごした時間は、晩年で最も充実した時間だっただろうと思います。
今日、樺太の旅のスケジュールがほぼ決定しました。小熊の過ごした、少年期の樺太への旅がいよいよ始まります。

2009/6/21  21:33

投稿者:モネ

小熊の足跡をたどり、札幌へ。
たくさんの収穫がありましたね。
こうして樺太への準備がなされていくのでしょう。

良き方向へと導かれますように。

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