
いのうえさんとKEEMYANさんから南伊豆に誘われ、二つ返事で「行く行く!」と答えた。
数日後、目的地が変更になった。
本栖湖だそうだ。
本栖湖ぉ?
海じゃないじゃん。
なんでもそこで「セーリングカヤック講習会」があるのだという。
セーリングカヤックなんて興味ないよう!
と返事を渋ったのだが、興味がないなんて実は大嘘。
話は去年の夏に遡る。

シットオントップに乗って釣りを始めたばかりの僕は如何に安全に沖のポイントまで行くかに腐心していた。
速度の遅いシットオントップでは沖に出たところで天候が急変、そのまま帰れなくなるのが怖かった。
本当に怖いのは波というより風だ。
シットオントップは風に弱かった。
とくに強いオフショアの風(陸風)に煽られると、僕の一人乗りプロ2タンデムではバウリー(ウェザーコックとは反対に風下に頭が向く現象)が出て、風上に向きを変えることすらままならなくなる。
うまいこと向きを変えても、強風に逆らって前進するのがまた一苦労だ。

「風と戦うのではなく、風を味方に付けたらどうだ?」
その発想から出てきたのがセーリングカヤック。
カヤックに帆を付けてヨットみたいに風を受けて走る。
魅力的なアイデアだ。
しかし風下へ走るのなら簡単だが、問題は風上に走れるのかどうか。
ヨットならできる(45度斜め風上だが)。
だがカヤックにはヨットのようなセンターボード(横風を受け止め前進する力に変えるフィン)はない。

諦めかけた時、ふと目に止まったのがサバニの存在だ。
サバニは沖縄海人(漁師)の伝統漁船。
現代のサバニは動力を積んでいるものがほとんどらしいが、もともとは帆走する舟だ。
帆走サバニは現代のヨットと比べても十分以上に速い速力で航行したという。
そしてここが最も重要なところだが、サバニにはセンターボードがない。
水中に突き出すセンターボードという発想は、沖縄の珊瑚礁の浅海をすり抜ける海人からは出てこなかったのだ。
そのかわりヨットとは比べ物にならないくらい細い艇体に作られている。
恐らくその細い艇体自身がセンターボードの役割をしているのだろう。

サバニに刺激を受け、僕もシットオントップに手製の帆を取り付けてみた。
三浦の海で実際に走らせてみたが、手製の帆は面積が足りなくて十分な能力を得られなかった。
第2号の帆も計画されたが、途中で立ち消えとなった。
「風を味方につける」路線から「風の影響を弱める」路線に再度変更したからだ。
喫水から上に露出している部分が極端に少ないフネ(グリーンランドカヤック)であれば、沖で強いオフショアに出会っても生還できる可能性は高いはずだ。
しかもグリーンランドカヤックはグリーンランドの伝統猟師の舟そのものであり、実績がある。
カヤックをサバニに化けさせるために試行錯誤するよりは確実性が高いと思われたのだ。

そして今年・・・。
講習会は迷いに迷ったが、なんとなく断れないまま結局「行く」と言ってしまった。
かくして一度は忘れさられたセーリングカヤックが、また僕の目の前に戻ってきた。
なんだか昔別れた元カノと再会するみたいでバツが悪かった。
それがセーリングカヤック講習会に足を運ぶのを躊躇した本当の理由。

再会したセーリングカヤックは僕の作った中途半端なモノとは違い、ずっと洗練され、ずっと完成されていた。
とても魅力的だったし、とても楽しい一泊二日のキャンプだったが、セーリングカヤックはついに僕をときめかすことはできなかった。
講習会が終わったあと、2日目に辿ったコースをショートカットして愛艇スパローホークで漕いでみた。
強い逆風に苦戦したが、それでもやっぱり僕の相棒はこいつなんだよなぁ。
楽しかったがちょっぴり切ない気持ちになったセーリングカヤック講習会だった。

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