2006/10/9
いつのまにか秋は本番。空気は澄んで空は高く、木の葉は色づきはじめ、金木犀のかおりが庭先に漂っています。今日も気持ちのいい秋晴れの一日でした。こんな日は戸外の木陰で本を読むのも気持ちのいいものです。で、金井美恵子の新刊『快適生活研究』を読みました。

何気ない連作短編のようでいて、語り手の視点が作品によって異なり、さらに作品の中に書簡や通信文の形式で別の話者の視点が挟まれ、それらの視点や語りがこの連作全体として有機的に呼応しあうという、決して内容が難しいというわけではないのに、複雑な構成で読み解くのが一筋縄ではないという、それはやはり金井美恵子ならではの小説なのです。
とくに、中盤から、登場人物が複雑に絡まりあい、なかほどの一篇ではとうとう、語り手の私はかの『小春日和』、『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』の桃子となり、小説家のちえこおばさんもしっかりと登場して、それなりの齢(よわい)を積み重ねているのでした。『小春日和』では19歳の桃子と30歳後半のちえこおばさんが、この作品では桃子は36歳、ちえこおばさんはなんと60歳の手前になっており、小説の書かれた年代の隔たりぴったりに、小説の登場人物もそこでの出来事や主題もすっかり高齢化が進展しています。その時の隔たりを感じながら、読みすすめるものとしては、軽いめまいを覚えずにはいられないのでした。
また、この作品では、金井美恵子の目白モノ連作における『文章教室』にはじまる物語の系と『タマや』にはじまる物語の系の二つの系が交差しています。桃子も出れば桜子も出て、桃子の親友の花ちゃんも桜子の親友の舞ちゃんも健在で、夏之さんやアレクサンドルもいます。そして、『文章教室』の現役作家はつい最近鬼籍の人となったばかりで、桜子の夫の中野勉は彼の追悼文を雑誌に書くのでした。
『文章教室』が書かれてから実際に20年以上の月日が流れ、作品のなかの時間もしっかりと20年以上の月日が流れているのです。これは、よく考えるとすごい話です。『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』でも10年の月日が流れて、それはそれで途方もないことではあるものの、一方で情況は何も変わってはいないじゃないかという感覚がありましたが、これからはそうもいかないという感じがします。桃子は、桜子は、そして小説家のおばさんは、これから先どうなるのでしょうか。
金井美恵子 目白連作小説
1985年 作家37歳 『文章教室』
1987年 作家39歳 『タマや』
1988年 作家40歳 『小春日和』 桃子19歳
1990年 作家42歳 『道化師の恋』
2000年 作家52歳 『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』 桃子30歳
2006年 作家58歳 『快適生活研究』 桃子36歳

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投稿者:イネムリネコ
ああ、そうでした。紅梅荘はそのままだったんです。
前作では、近々とり壊しとの話でしたけど、
今も無事残ってて、桃子も岡崎さんも住んでるんだった。
ところで花子はどうしてるんでしたっけ?
投稿者:イネムリネコ
キマグレネコさん。こんにちは。
来てくださってありがとう。
そうなんです。このところの気候も、すっかり
お散歩日和で、目白辺りを歩いたらどんな気分でしょうか。
とはいっても、わたしにはその辺りの土地のイメージは
サッパリなんですけどね。
ところで、紅梅荘はどうなってしまったんでしたっけ?
投稿者:キマグレネコ
あっ、気がついたら、10100バンでした
あんまりキリよくないかな?
すごい!すごい!
投稿者:キマグレネコ
これはもう、目白散歩へ出かけるしかないでしょう
冬支度なんて後回しにして