【2009年5月のテーマ 旅04】
手の中の乾燥芋を取り落としそうになって、プカプカははっと目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。だいぶ身体が冷えてしまっている。
プカプカは食べさしの乾燥芋を口にくわえて、再び身体を擦り始めた。季節は冬というわけではなかったが、雨の日や夜は季節を問わず寒さで死ぬ人間が出る。
こわばった身体がほぐれてきた頃、穴の中がぼんやりと明るくなっていることに気がついた。
はっとなって穴の外を見ると、さっきまでの暗い灰色はどこかへ消え去り、白っぽい明るさが戻ってきていた。
「寝ている間に止んだんだわ……」
プカプカはごそごそと穴から這い出した。
雨はもう止んでいたが、穴の外は白くもやに包まれていて、遠くまで見渡せない。
いったん穴にとって返し、ツァモウを履き直すと、プカプカは少し穴から離れてみた。
見ると、今までいた穴は斜めになった岩盤に開いていて、岩盤は全体が丘ほどの規模があるようだった。
「この上に登れば……」
周囲が見渡せるかもしれない。
岩盤の周りをゆっくり回ってみる。すると、角度が深く切り立っているのは穴の空いていた側だけで、反対側は緩やかな上り坂になっているのが分かった。これを登れば岩盤の一番上にまで登っていけそうだ。そう分かるのには、数分歩かなければならなかったが。
穴の中に起きっぱなしの荷物が気になるが、この状況でわざわざ盗みに来る者もいないだろうと思い直して、プカプカは「旅人の肌」のままで斜面を登り始めた。「旅人の肌」は密に織られてはいるものの、見た目はごく薄く、向こうが透けて見えるほどだ。だから濡れた丈の低い草が密生した斜面を登る彼女の姿は、年頃の娘にはあるまじき格好ではある。
といって、周囲にそれを見咎めるひとがいる気配もありはしなかったのだが。
いや、若々しい素肌を布地一枚に透けさせた姿を、興味深く見つめている神はいたかもしれない。
ともかく。
プカプカはわずかに息を弾ませつつ、岩盤の一番てっぺんにまで登り詰めた。
つづく。

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