この時代、会ったこともない要人同士は、肖像画を通じて相手の姿かたちを知ることが多い。
ニミウラ姫などは、たくさんの肖像画が作られ、国同士の間はおろか、国内のあちこちに飾られるほどの人気だった。
しかしこの王子は……。
「なんっていう醜さなのかしら! こんなひとがわたしと結婚! わたしの夫に! ありえない! ありえないわ!」
ひどい言いぐさだったが、確かにハンムーの王子は眉目秀麗とは言い難かった。
がっしりしているといえば聞こえはいいが、肩との区別がつかないほど首は太く、その首に乗っかっている頭も、上下に押しつぶしたようなかたちをしている。
その顔も粘土板に子供が刻んだ模様のような目鼻を、さらに左右に引っ張って伸ばしたかのような造作なのだった。
ニミウラ姫でなくとも、紙芝居のような恋物語を夢見る年頃の少女には二の足を踏む相手だったと言っていい。
ましてこの姫だ。
肖像画を見た瞬間(それでも実物よりはずっとましに描いてあったのだが)を投げ捨て悲鳴をあげた。
「絶対にいや! いや、いや、いやっ! こんな化け物と誰が結婚するものですか!」
なだめすかそうとする家臣たちを相手に、姫は暴れに暴れた。
寝具を引き裂き、家具を粉砕し、いったい深窓の姫君であるニミウラ姫にどうしてこんな真似ができたものか、というほどの暴れっぷりだった。
次回へつづく
『ニミウラ姫の純潔』は、架空世界カナンを舞台にしています。
同じ世界を舞台にしたほかのおはなしをウェブサイト『神と人の大地』で読むことができます。

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