「機会があればこのまま逃げてしまいたいところだけど……」
夜の間中灯されている灯火のわずかな明かりを頼りに、きょろきょろと周囲を見回しながら姫は別の出口を探したが、見あたらなかった。
ついにいちばん奥まった場所、ミリ神への祈りを捧げる場所へやってきた。
一段高くなった中央には、木の葉のようなかたちをした大きな木彫りがある。ミリの神体だ。祈りが聞き届けられればこれにミリが顕現するという。あるいはこれを通じてミリは人間の女の願いを聞くともいう。
「ミリよ」
両手を胸の前で交差させて姫が膝をついた。王家の姫といえど、神の前では頭を高くしていることは許されない。どんな罰を被るか分からないからだ。
「わたしの願いを聞いて下さい。あんな醜い男の妻になるのは嫌です。こんなに美しいわたしが、どうしてあんな獣と区別のつかない男と契らなければならないのでしょう」
姫の言葉は、一語ごとに熱を帯びていく。
「そんな結婚はいやです! わたしはまだ男を知りません。おぞましい獣に犯されて女にされるなんてまっぴら! そのくらいなら死んだ方がましです!」
次回へつづく
『ニミウラ姫の純潔』は、架空世界カナンを舞台にしています。
同じ世界を舞台にしたほかのおはなしをウェブサイト『神と人の大地』で読むことができます。

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