「カヤクタナ王妃 ウナレ・ナンハバシク・ハンムー(後編)」
カナンの人生・波瀾万丈
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生還したモロロット二世との間にあった誤解もとけ、ウナレの才を認めた王は彼女の意見を取り入れる。ムングからも「仲睦まじきマイカ」と評された二人は、協力して国難に立ち向かっていった。
神の戦に敗れ、聖都から転進したクンカァン軍は、ヴェニゲと古の獣、そしてカヤクタナ軍によって瓦解したのである。
「最後の神」戦役の後、カヤクタナは旧シク領をクンカァンから割譲し、シクの民に解放した。後にイシュターノがこの新シクを統治することとなる。
また、クルグラン亡き後のクンカァン内乱に対しては、オロサス家のムンディとオルクを支援し、速やかにこれを平定させている。
戦役終了の直前、二国間で独自の同盟を結んでいたヴラスウルとは、その後も協調し、二国は婚姻によってカヤクウルへと統合されることとなる。
クルグランの脅威が去ったあと、残された大きな問題は「複数のクマリ」の存在だった。
なりゆきからレシマを擁していたカヤクタナだが、ウナレは早くから夫のモロロット二世に「このままでは、手前勝手にクマリを奉じ、神聖ウラナングを我がものにしようと企む者が新たな争いを生みましょう」と告げていた。
彼女が発案したのは、レシマ系統、フィリシ系統、そしてヴォジク勢力が擁立した新クマリの三人のクマリが同等に聖都ウラナングに集い、これを治める体制である。
この体制を目指したカヤクウル(当時はまだカヤクタナとヴラスウル)は、ヴォジク勢力(当時はクンカァン残党、旧ハンムー貴族、バーブックの一族の乱戦状態)に対抗し、広大な旧ハンムー領を巡って争うこととなる。
バーブック亡き後のヴォジクに対して、ウナレは巧みな外交で敵勢力の分裂を誘い、優位にことを進めて休戦に持ちこむと、三クマリ体制を確立させた。これにより、神聖ウラナングはようやく安定を取り戻すことになった。
十五年後、新シクとクンカァン領を含む大国の完成を待たずにモロロット二世が急逝すると、ウナレは夫の遺志を継ぐべく、またしても最善を尽くそうと決意する。
クンカァンのムンディ、シクのイシュターノの説得に努め、東の大国カヤクウルの建国を成し遂げ、西の大国ヴォジクに対抗したのである。
クマリの体制と二大国力の拮抗による安定が成ったことを確認すると、ウナレは伯母ネピニィニのように手にした権力を楽しむことなく、あっさりと一線を退いた。
彼女はモロロット二世の眠る旧王都エレオロクで、静かに余生を過ごしたのである。
もっとも、チャンと音楽と舞を楽しみ、他愛のない噂話に興じる彼女の“華の間”に、貴人の奥方たちの嬌声が耐えることはなかったが……。

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