腐った泥のような。
最初にその臭気に気づいた男は顔をゆがめた。誰かごみの始末をいい加減にしたか? もしそうなら見つけて叱ってやらにゃあ……
薄い夜がけの下でそんなことを思っていられたのは、わずかの間のこと。
臭気はすぐに男の頭の中をいっぱいにしてしまった。
――憎い。
――仕返し。
――死。死。死。
ごぉ、おおおお、おぁああああああっ。
男の口から恐ろしい叫びが迸った。
「村を助けてください……!」
旅の途中、野外で昼の休息を取っていたビリワたちのところにふらつく足取りで駆け寄ってきた少女はそう言って助けを求めてきた。
「助けを求める振りをして、旅人を騙そうって手口じゃないか?」
と疑うビリワ。同道のモミアゲ、クムクムも首を傾げたがいたいけな少女を放っておくこともできない。結局、少女……ウラサヒラの必死の懇願に壊れて、彼女の村へと向かうことになったのだった。
ウラサヒラの話では、2日前の晩、急に村人たちがけもののように凶暴になって襲いかかってきたという。
なにぶん夜のこと、混乱した村の状況は詳しく分からないが、ウラサヒラは父によって村の外へ助けを求めるように言われて逃げ出してきたのだという。
その村。
「やけに静かじゃないか」
一行では最年少のクムクムが油断無く周囲を見回した。その手にはすでに愛用の弓が握られている。
午後の明るい日差しのもと、村の様子は静かで、ウラサヒラが言ったような異変があったとはにわかには信じられない。
「静かすぎるな。畑仕事に出ているにしてもこれは妙だ」
「やっぱり罠……」
年長のモミアゲの言葉に、疑い深いビリワはそれみたことかと言いかけるが、言い終わるより先に村の家の影から誰かが現れた。ひとり、ふたり。どちらも農夫ふうの姿の男。
その足取りはよろよろとおぼつかないが、しかし迷うことなくまっすぐビリワたちの方へと向かってくる。
日差しの下、その表情ははっきりと見えない。
が、男のひとりがくわっと口を開いた。
ご、おあああぁおおおおおおおおっ
人のものとも思われない咆吼。もうひとりの男も同じように叫び始めた。
それに呼応して、村の各所で叫び声があがり始める。
「あ、あれ、村のひとなのか?」
クムクムの問いに蒼白になったウラサヒラがうなずいた。
「サチョウさん、ゴオザさん……っ」
そう呼ばれた男たちの足取りはまだゆっくりだった。だが、いまや彼らは明白な敵意を露わにして、ビリワたちを目指して歩いてきていた……!
――襲いかかる凶暴化した村人たち。はたしてその原因は。その謎を追って、一行は密林へと足を踏み入れる。その彼らを待ち受けるあの匂い……。
『カナンRPG』用シナリオ、『沼の神』。
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